デザイナー、ニールズ・ディフリエントについて業績やその哲学について紹介します
エルゴノミクス(人間工学)の原点を極めた工業デザイナー
ヒューマンスケール社の歴史は、同社のオフィスチェアの設計を担当したNiels Diffrient (ニールズ・ディフリエント/1928-2013)を抜きに語れません。 Knoll(ノル)をはじめ著名なデザイン事務所で活躍した彼は、電話機やポラロイドカメラ、航空機のコックピットなど多数のデザインに携わり実績を残しています。 その功績は50以上の特許と75のデザイン賞の受賞歴が物語っています。
ディフリエントは、エルゴノミクスという言葉を「人間工学」と明確に定義しました。
その最終目標は、大量生産される製品こそ機能とデザインを融合させる必要があるというものでした。
彼は、1955年よりヘンリー・ドレフュスのデザイン事務所で25年にわたるキャリアをスタートさせると同時に、
本格的にエルゴノミクスの研究に没頭し、さまざまなデザインに携わりました。
2010年クーパー・ヒューイット国立デザイン博物館での公開討論会で、彼はデザイナーとエンジニアの違いについて次のように語っています。
「エンジニアには根本的に美学に対する追求が欠けている。機械工学的もしくは電気的な機能にのみ焦点を当てており、 そこからさらに何か、例えば詩的なもの、文化的なもの、視覚的に満足のいくものを加味していくことをしないものだ。」
ニールズ・ディフリエントの活動は、常にヒューマンファクターエンジニアリングの研究と実践の連続でした。
その成果として、家具と空間デザインの関係性を完全に数値化しガイドラインを発表しました。
1974年に「Humanscale 1/2/3」(人体寸法早見表)として共同出版されたこのガイドラインは、エルゴノミクス (人間工学)の原点として、
その後の多くの工業デザイナーに活用されました。
社名の由来も、エルゴノミクス(人間工学)に特化する意味をこめて、このガイドラインの名称から採用されました。
1990年代後半、フリーダムチェアのプロトタイプが完成した時、彼はすでに70歳を過ぎていました。 このフリーダムチェアと呼ばれる彼の作品は、瞬く間にすでに人気を博していたハーマン・ミラー社のアーロンチェアの競合製品にまで成長し、 数多くの賞を受賞、後に続く「リバティチェア」「ディフリエント・ワールドチェア」を開発する大きな原動力となりました。
彼はニューヨークタイムズの取材に対し、多機能チェアについての見解を発表しています。
「多くのエルゴノミクスデザインのオフィスチェアは、座面の高さ、リクライニング、肘掛やヘッドレストの高さ調節等に、
あらゆるレバーやつまみがついている。でもほとんどの人がそれを毎回使用するわけではない。
レバーやつまみはそれがついているだけで、その椅子の問題点を露呈しているようなものだ。
リクライニングするときに、自らレバー操作する必要なんて無いはずだ。
椅子の方が体重に合わせて調整してくれたほうがいいし、肘掛の位置調整も片方ずつするよりも、
どちらか一つだけ操作すれば両方整うようにする方が使いやすいものだ。」
技術面とデザイン面を融合させるディフリエント氏の目を見張るようなアイディアの源泉について、
彼が生前到達した境地をタイム誌にこのように語っています。
「よりよい姿勢、より良い状態を目指さないならデザインしても無駄である。」と。